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高知簡易裁判所 昭和33年(ろ)27号 判決 1959年10月09日

被告人 酒田昭一郎

昭四・一・一〇生 会社員

主文

被告人を罰金五千円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金弐百円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。

訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は軽自動車の運転者であるところ、昭和三十一年四月二十八日午後二時頃高第六五八七号軽自動車を運転し、高知県吾川郡伊野町柳瀬字石見の西方約五百米の県道上を川下(伊野町方面)に向い、時速約二十粁で道路の中央稍右寄りを進行して差しかかり、間もなく右側通行に移行したのであるが、その附近路線はほぼ直線になつているところ、被告人は前方七、八十米の地点より石井豊一(当五十八年)が自転車に乗り、左側通行により進行して来るのを認めた。こうした場合における右側通行中の軽自動車の運転者は、速かに左側通行に移行するか又は急停車をなす等の措置に出で、以て衝突又は接触による事故を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのに拘らず、被告人はことここに出でず、そのまま右側により進行を続けた過失により、自己の運転する軽自動車の前輪を右石井豊一の乗つていた自転車の前輪に接触させ、以て同人をして同所県道下方約二米六十糎の藪の中に自転車もろ共転落せしめ、因つて同人に対し、四十日間の安静加療を要する左第五肋骨々折並びに右胸部打撲症の傷害を負わせたものである。

(証拠)(略)

(被告人の注意義務に関する当裁判所の見解)

道路交通取締法(以下法という)はその第三条において「道路を通行する歩行者は右側に、車馬は左側によらなければならない。歩道と車道の区別のある道路においては、歩行者は道路の左側の歩道を通行することができる。」と定めている。この規定はいうまでもなく、道路交通の秩序を保持し、以て交通の安全を期するにあるのである。

ところで車が右の規定に反し、右側通行によつた場合、殊に本件の如く両車が道路において行き違うにあたり、左側通行を守つた車と、右側通行によつた車とが接触し、因つて事故を生じたような場合、その責任をいずれに帰せしむるのを相当とするであろうか。

先ず問題となるのは『法に定められた左側通行によりさえすれば、これに対面して来る右側通行車と接触又は衝突の危険が迫つていても、左側通行車にはその措置について何の注意責任もないではないか。換言すればこの場合左側通行車としては、そのような危険を生ずるに至つたのは、先方の車が法に定められた通行方法によらないためであり、このことのため、非はすべて先方の右側通行車にあるのであるから、従つて左側通行車には何等の注意義務もないではないか。』との考え方である。こうした考え方をそのまま受け入れることの許されないこと素よりいうを俟たないが、道路の一線上を両車相対して進行する場合、互に避譲せずまた停車をもしなかつたならば、その衝突は必然であるから、かかる危険を未然に防止するためには、いずれか一方の車が進路を避譲し、或はまた停車する等の措置に出なければならない。こうした事態における進路避譲等の措置に出づべき義務が、両車のいずれにあるかについては、事案の具体的事情により決すべきで、一概に断定することはできないけれど、特段の事情のない限り、法第三条及び第二九条第三号の法意に鑑み、右側通行車にその義務ありとなすのを相当と解する。

そこで本件についてこれを見るに、接触に至るまでの両車の進行経路についての被告人と被害者のいうところは必ずしも一致しないが、これを被告人の主張によるとしても、少くとも両車の間隔が一〇米乃至一六、七米位に接近した以後は、被害者が左側通行によつて進行して来るのに対し、被告人はこれと同一線上を対面して右側通行によつていたのであり、しかも被害者が普通自転車に乗車していたのに対し、被告人はその性能においてはるかに優越する軽自動車に乗用していたのであるから、かかる場合右側通行中の被告人としては、左側通行中の被害者の進路避譲又は停車の措置に期待することなく、躊躇せず直ちに左側通行に移行し、或はまた急停車をなす等の措置に出で、以て衝突又は接触を避くべき注意義務があるものといわねばならぬ。尤も被告人は「事故発生の直前二回にわたり、左側移行のためハンドルを左に切つたが、路面が中高で且つ砂利を撒いてあつたため、これを越し得なかつた。」旨弁疏するが、被告人の検察官に対する第二回供述調書の記載によれば「該路面は中高といつても極端ではなく、ギアをローに切換えれば十分越し得る情況にあつた。」との事実が認められるのみならず、もし乗車したまま方向転進が因難であつたとするならば、ためらうことなく直ちに停車し、以て事故の発生を未然に防止すべき義務があるものとなさざるを得ない。それゆえこうした義務をつくさなかつたことに基因して生じた本件傷害につき、被告人はその過失の刑責を免れることができない。

(法律の適用)

法に照らすと、被告人の判示所為は、刑法第二一一条に該当するので、所定刑中罰金刑を選択し、罰金等臨時措置法第三条第一項を適用して、被告人を罰金五千円に処するのを相当とし刑法第一八条に依り、右罰金を完納しないときは金二百円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。なお訴訟費用は刑事訴訟法第一八一条第一項本文に則り、その全部を被告人に負担させることとする。

よつて主文の通り判決する。

(裁判官 市原佐竹)

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